音坊主 2017年東京公演 動画&プログラム ストラヴィンスキー
イーゴリ・ストラヴィンスキー:「兵士の物語」より「小さなコンサート」
Igor Stravinsky : “Petit Concert”, extrait de “L’Histoire du soldat”
20世紀音楽の最大の革新者の一人イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971)は、初期3大バレエの時代における原始主義の音楽から、1920年代以降の新古典主義作風、そして第2次大戦後のセリー主義を独自に取り入れた時期まで、次々に作風を変えていったことで知られる。その功績としては何よりもまず、絶えざる拍子の変化や奇数拍子の多用、リズム細胞の巧みな変化を伴う反復、拍節から独立して進むリズム・ペダル(リズム・オスティナート)の大胆な使用などにより、西洋芸術音楽において支配的だった一定不変の拍節を解体し、和声や対位法に比して単純なものに留まっていたリズム構造に新たな息吹を吹き込んだことが挙げられよう。そうした文脈においてストラヴィンスキーは、”Compositeur et rythmicien”(作曲家にしてリズム主義者)を自称していたメシアンの登場を予告する作曲家であり、「メシアンへと続く道」の最終ランナーとして誠に相応しい。
<兵士の物語>は、大スキャンダルを引き起こした<春の祭典>から5年後の1918年に発表された7人のアンサンブルと語り手、兵士、悪魔、王女(台詞はなし)の役による舞台作品で、ロシアの民話に想を得て書かれたラミューズの台本に基づく。本日演奏される<小コンサート>は、兵士ジョゼフが病床に伏した王女の寝室でヴァイオリンを弾くと、王女が起き出して踊り出すという場面につけられた音楽で、後に作曲家自身が5曲を抜粋し創意豊かに編曲したトリオ版組曲(1924)では3曲目に位置する。輝かしいニ長調で中高音域に密集し、ヴァイオリンの重音奏法とファンファーレを思わせるクラリネットのフレーズが印象的な冒頭部分に始まるが、この楽想は元々<小川のほとりのアリア>(トリオ組曲版では2曲目<兵士のヴァイオリン>)で過渡的に登場したモティーフを発展させたものである。その後、最終的にこの楽想が回帰して終わるまでの短い時間に、実に様々な楽句が目まぐるしく立ち現れ、組み合わされるが、その内かなりの部分は組曲前半において既に聞かれたモティーフである。この時期のストラヴィンスキーが得意としていたリズム・ペダルはこの楽曲でも中間部分において効果的に使用されており、変拍子による主旋律に対し2/4拍子や3/8拍子を保つリズム・ペダル声部が重ねられることにより、聴くものの耳をかく乱する そして演奏するのも至難な 複雑極まるリズムの層を作りだしている。
解説 夏田昌和
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