アンサンブル音坊主 2017 プログラム解説 動画 マショー

アンサンブル音坊主 ギョーム・ド・マショー:「ダヴィデのホケトゥス」vn.vc.cl.pf版(編曲:夏田昌和) Guillaume de Machaut : “Hoquetus David”
曲目解説 / 夏田昌和(作曲家)
ギョーム・ド・マショー:<ダヴィデのホケトゥス>
Guillaume de Machaut : <Hoquetus David>
 「メシアンへと続く道」は、西洋音楽史を駆け足で巡る旅でもある。グレゴリオ聖歌を起点に、初期のポリフォニーが生じたのが9世紀頃、12世紀半ばのゴシック時代には西洋音楽史上初めて”作曲家”や”作品”が登場してくる。そして今から700年近く前の14世紀フランスで、一人の芸術家によって西洋音楽のポリフォニーは最初の頂点を迎えることになるが、その人物こそアルス・ノーヴァを代表する詩人にして作曲家のギョーム・ド・マショー(1300年頃~1377)である。マショーは数多くのシャンソンやバラード、ロンドー、モテット他を残したが、なかでも<ノートルダム・ミサ>は、一人の作曲家がミサの通常文全体をポリフォニーで作曲した最初の例として知られている。
 <ダヴィデのホケトゥス>は、マショーが残した唯一の純粋な器楽曲(編成の指定はない)で、聖歌のアレルヤ唱「栄光の乙女マリアの御生誕」の中の単語「ダヴィデ」を歌うメリスマ部分をテノールの定旋律に用いていることから、この名で呼ばれている。ホケトゥスとは、2つの声部が一音毎に交互に発音することで1本の旋律の様に聞かせる技法で、この楽曲ではモティーフを緊密に模倣しあう上2声部において時折効果的に用いられている。構造上一層興味深いのは、イソリズム技法が用いられているテノール声部(この編曲ではチェロと、カリヨンの音色を模したピアノが担当)である。イソリズムとはアルス・ノヴァにおいて多用された一種のオスティナート技法だが、旋律線の反復単位(コロール)とリズムの反復単位(タレア)が互いに独立しているという特徴をもつ。この<ダヴィデのホケトゥス>では、32個の音からなるコロールが計4回繰り返される間に、タレアは33拍から成る第1の型が8回、27拍から成る第2の型が4回反復される。旋律が繰り返される度に異なるリズムによる一方、リズム型も反復する毎に異なる音高表現をもつ訳だが、これはメシアンが<世の終わりための四重奏曲>の第1楽章においてチェロやピアノのパートに用いている「リズム・ペダル」の技法と全く同じ発想であるといってよい。時を超えた遥かな旅の始まりへと我々を誘う華やかなファンファーレとして、お楽しみ頂きたい。

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