世の終わりの為の四重奏曲 解説6
夏田昌和さんによる解説その3、メシアンが如何にして収容所でこの曲を作曲する至ったのか?
という事など詳しく書かれております!(そういう経緯だったのね。)🤔
第3楽章<鳥たちの深淵>
クラリネット・ソロの楽章です。広い音域と大きなダイナミック・レンジ、そして敏捷な運動性を誇るクラリネットの特性や魅力を存分に引き出した名曲として、コンサートなどで単独で取り上げられることも少なくありません。第2次大戦中に召集されて従軍したメシアンは、ヴェルダン近郊の要塞で、後に「世の終わりのための四重奏曲」の初演者となるチェロ奏者エチエンヌ・パスキエとクラリネット奏者アンリ・アコカに出会います。アコカはクラリネットを持参していた為、メシアンは彼のためにこの音楽を書き始めました。そして敗走の中で3名共にドイツ軍に捕らえ、捕虜収容所に移送される途中の野営地で、この楽章のみ単独の楽曲として試演されたという経緯が明かされています。(ちなみにこの時、楽器を持っていなかったパスキエは進んで”譜面台役”を務めたそうです。)つまりこの独奏曲こそが傑作「世の終わり」が書かれる発端となったのです!
楽曲はまず、移調の限られた旋法(MTL)第2番によって書かれメシアン好みのM字形音型に始まる陰鬱なモノローグで開始されます。この部分は題名にある「深淵」を表象しているということです。そして非常に大きなクレッシェンドを伴うE音のロング・トーン(スコアの指示通りのテンポだと約11秒ですが、長ければ長い程メシアンは喜んだという話も…)を機に、一転して活発な鳥の囀りによる中間部となります。後の時代の作品のようにスコアに明記されている訳ではありませんが、ここで歌声を披露しているのは第1楽章にも登場したツグミ(クロウタドリ)とされています。メシアンは、戦地においても毎朝早くに起きて鳥たちの目覚めの歌声を聴くのを日課にしていたらしく、次のような心を打つ言葉が伝えられています。「自分自身に、あるいは人間という種に不信感をいだいた精神状態で、鳥の歌をモデルにしました。何を象徴しているのかと問われれば、鳥は自由の象徴だとしましょう。私たちは歩き、彼は飛ぶ。私たちは戦争をし、彼は歌う(・・・)鳥の歌のように至上の自由に満ちたメロディーやリズムを、どれほど感銘を受けた音楽だとしても、人が創造した音楽に見出せるでしょうか。」(レベッカ・リシン「時の終わりへ」より。翻訳は藤田優里子氏)
やがて、楽曲冒頭の7音を移高し音域変換して得られるアーチ状の音型(譜例を参照の事)とそのエコーが聞かれると、音楽は徐々に静まり、始めのモノローグが1オクターヴ下の最低音域で回帰します。そして最後に件のロング・トーンやアーチ状音型の反行形(こちらは冒頭モティーフの7音をそのまま音域変換したもの)、鳥の囀りなどを短く回想して終わります。
メシアンはこの楽章のタイトルに関して「深淵、それは、悲しみと倦怠に満ちた“時”である。鳥たち、それは”時”の対立物であり、光や星、虹、そして喜びに溢れたヴォカリーズへの、我々の希求である」と形而上学的な見解を述べています。文章 夏田昌和
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