世の終わりのための四重奏曲 解説5
北の大地からこんにちは。
メシアンは共感覚の持ち主で音が全部色に見えたそうです!
夏田昌和さんによる解説2! 第2楽章<時の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ>
新約聖書の最後に置かれている謎に満ちた預言書「ヨハネの黙示録」の第10章には、「身体を雲に包まれ、頭に虹を戴き、顔は太陽、足は焔の柱のような御使(=天使)」が登場し、「右足を海上に、左足を地上に置いて立ち、手を天に向って挙げて『もはや時はなくなるであろう。第7の御使が吹くラッパの日には、神の奥義が成就するであろう。』と神に誓った」というシーンが出て来ます。
第2楽章の冒頭、フォルティッシモの激しい導入部の音楽は、メシアンによればこの黙示録の御使の力強さを表しているそうです。 ピアノ・パートにはメシアンが好む「属音上の和音」(長音階の7つの音全てを含む和音で、しばしば倚和音に先行される)や、「下方共鳴音」の例が多く見られます。 クラリネットは「小鳥の様式」によっていますが、第1楽章の穏やかな囀りとは打って変わってここでは警告を告げるような緊張に満ちたものとなっています。
中でも耳を惹く32分音符(テンポは♩=54)の駆け上がるような動きは、ピアノにみられたような「属音上の和音」をアルペジオにした例で、この後に続く二つの楽章でも同じくクラリネット・パートに時折登場するものです。 均等な16分音符(テンポは♩=104)をユニゾンで刻むヴァイオリンとチェロのパッセージや上行音階は「移調の限られた旋法第3番」を用いて書かれています。
メシアンが用いる音高組織の代名詞とも言える「移調の限られた旋法 mode à transposition limitée =以下MTLと略記」とは、旋法自体の中に特定の音程構造の反復があるため、2回~6回の移調しか出来ない(それ以上移調しようとしても、元の旋法を違う音から始めただけのものになってしまう)という音高組織です。(これに対して古典的な長音階や短音階、教会旋法などは12半音の全ての音の上に、12回の移調が可能です。)
ちなみにドビュッシーがしばしば用いた「全音音階」はメシアンの分類ではMTL1番となります。全部で7つが挙げられているMTLの中で、メシアンが用いる頻度が高いのは第2番と第3番で、それぞれ12半音から減7和音の4音や増3和音の3音を除いた8音(MTL2番)と9音(MTL3番)から成っています。
さてそうした導入部の後にこの楽章の中心を成す印象的な中央部分が始まりますが、ここでは弱音器をつけた弦楽器が、やはりMTL3番を用いて書かれた聖歌風の旋律を2オクターヴのユニゾンで清らかに歌い上げます。
遠くより響いてくるカリヨンのような音色で弦楽器の旋律を包み込むピアノを、共感覚を持っていたメシアン(彼の場合は音を聞くと色彩が見えたそうです)は「ブルー・オレンジの和音群による柔らかな滝」と言い表わしていますが、連綿と続きながら下降を繰り返すこのピアノ・パートの「和音の房」には、やはり彼の重要な和声語法である「4度堆積の和音」や「倍音の和音」、そしてMTL2番による和音などが用いられています。
メシアンが「天国の微細なハーモニー」と形容した中央部分が終わると、最後に導入部の後半7小節が完全に上下反転した形(反行型)で短く回想されて、この楽章が締めくくられます。
文章 夏田昌和
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